ウッドショックとは?木材価格高騰の原因や影響・見通しを解説
木材価格の急激な高騰を意味する「ウッドショック」。住宅業界にも大きな影響を及ぼしています。
「ウッドショックってなに?」
「ウッドショックの原因や影響を知りたい」
「ウッドショックは今後どうなるか、見通しを知りたい」
あまり聞き慣れない単語に、上記のような疑問を持つ人も多いでしょう。
本記事では、ウッドショックの概要や原因、ウッドショックが及ぼす影響や今後の見通しについて、関係各所のデータなどを基に解説しています。
住宅の購入価格にも大きく影響するので、検討中の人はぜひ参考にしてください。
ウッドショックとは?
ウッドショックとは、wood(木材)とshock(打撃)をかけ合わせてできた木材価格の高騰を意味する言葉です。
1970年代に起きた原油価格の高騰を指す「オイルショック」が有名ですが、ウッドショックはこれになぞらえたもので、オイルショック同様に世界中で大きな影響を与えています。
実は3回目のウッドショック
実はウッドショックは過去に2回発生しており、今回で3回目となります。
1回目のウッドショックは1990年代前半、木材の大きな供給元であった北米やマレーシアで起きた天然林保護運動をきっかけに木材の供給量が減少。これにともなって価格が高騰しました。
2回目は2006年頃、インドネシアで伐採規制が強化されたことをきっかけに、同じく木材の需給バランスが崩れてウッドショックが発生しています。
過去2回のウッドショックは「規制」がきっかけでしたが、3回目となる今回はこれまでとはかなり状況が異なります。原因については後述します。
2021年時点でのウッドショックの状況
木材価格の高騰は2021年が最も顕著です。
日本銀行が公表する企業物価指数によると、2021年12月時点で前年同月比で61%もの上昇幅であったことが確認できます。つまり、わずか1年で木材や木製品の価格が一気に6割も値上がりしたということです。
輸入木材の状況はさらに深刻で、同年同月の上昇率は前年比73%増となっています。なかでも集成材が前年比135%、製材で132%の値上がりを記録しており、住宅価格などに大きな影響を及ぼしています。
なお、企業物価指数は2022年になっても収まる気配がなく、前年比59%増と価格の上昇が続いています。2020年から比べると、わずか2年で2.5倍以上の価格になっていることがわかります。
2023年1月現在も木材価格は高止まりしており、ウッドショックは続いていると考えられます。
ウッドショックの影響
ウッドショックの影響について、身近なものから見ていきましょう。
消費者への影響
建築関連で最も大きな影響を受けるのは、工事にともなって新たに木材が必要となる新築やリフォームの価格です。
経済産業省が公表しているデータによると、新築戸建住宅の売買は2020年4月の新型コロナウイルス感染拡大を受けて大きく落ち込んだ状況に、ウッドショックが追い打ちをかけた形で減少の一途を辿っています。
木材価格の高騰で新築物件自体の価格も上昇し、家を買いたい人やリフォームを検討している人が想定外の値上がりに工事を諦めたり、ウッドショックの動向を見極めるために延期するといった動きが広がっています。
このような流れから、新築住宅を希望していた人たちが中古住宅に流れる動きが拡大し、結果的に中古住宅の価格も上昇傾向にあります。
出典:経済産業省「第3次産業活動指数 新築戸建住宅売買業指数の維持」
特に大きな影響を受けている木材
日本における木材の輸入は、アメリカ・ロシア・ヨーロッパがその多くを占めていますが、ウッドショックによってすべての輸入価格が上昇しています。輸入木材の価格高騰を受け、代替品として国産木材の需要が高まり、国内外すべての木材価格が上昇している状況です。
なかでも特に急騰しているのが「ヒノキ」。家を建てる際に一定の強度が求められる梁や柱に多く使われる木材がヒノキだからです。
日本は国土の67%が森林であり「森林大国」と言われていますが、国産材自給率は発展途上であるため、まだまだ輸入木材に頼っているのが現状です。
工務店など建築業界の影響
建築業界では、木材が確保できないことで工事の延期や見送りが多発しています。新築物件を建築する工務店の状況は、公開されているデータからより詳しく読み取ることができます。
2021年8月に全国建設労働組合総連合が実施した調査結果の概要を要約すると、以下のような内容です。
・有効回答:32都道府県、273社の工務店
・「2021年5月と比べて、8月は木材の調達が悪化した」という回答が51%
・同期間で「木材の調達価格が若干値上がり・大きく値上がりした」という回答が93%
・「上昇したコストはお客様に負担してもらった」という回答が39%
・「上昇したコストの一部またはすべてを自社負担」という回答が61%
・「工務店としての受注が悪化した」という回答が37%、「横ばい」が61%
このように、工務店もあらゆる面で影響を被っていることがわかります。
なお、受注悪化の原因については「工事金額が上がり成約しない」「お客様がウッドショックの様子を見ている」という回答が全体の8割を占めています。
出典:全国建設労働組合総連合「ウッドショックによる工務店影響調査(第2回)」
ウッドショックの原因は?
経済はちょっとしたきっかけから様々な分野に波及し、やがて世界全体に影響を及ぼす大きな流れとなります。3回目となるウッドショック、その原因について解説します。
新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、大都市や商業港のロックダウンや外出制限などの厳戒令の影響で、木材の調達から消費までの全体の流れが大きく滞りました。
また、木材の輸出に利用されていたコンテナの生産量が減少したことも供給不足に陥った要因だとされています。コロナ以前である2019年からコンテナの生産量は前年比40%減となっていたことにくわえて、コロナ禍によって先行きが不透明になったことでさらに生産量を減らした背景があり、ただでさえ減少していた供給量がさらに減る事態となりました。
アメリカの新築需要の拡大
アメリカでの住宅ブームもウッドショックの大きな原因とされています。
コロナ禍による大幅な経済活動の停滞を受けて、アメリカ政府は金融緩和政策を打ち出し、現金給付などの大胆な財政出動を実施しました。
このような状況のなか、一般の人々のあいだでは感染症対策の一環としてリモートワークがトレンドとなり、金融政策による低金利と相まって郊外に住宅を購入したり、リフォームする人が急増しました。
このような原因から、木材の流通における需給バランスが大きく崩れたことで木材が急激に高騰、その流れは世界へと広がっていきました。
参考:木材の流通量はウッドショック以前から減少傾向
実は元々木材の流通量は減少傾向にあり、上記のような大きな出来事がウッドショックに拍車をかけたというのが実際のところです。木材の流通量が減少傾向にあった要因は以下のとおりです。
・カナダ木材業界のストライキ
2019年、カナダの林業労働組合とカナダの製材会社との間で、労働条件をめぐる交渉が決裂しストライキが発生。工場機能が停止して供給量が減少しました。
さらに同年、カナダ最大手企業の私有林伐採も停止しており、カナダ全体の供給量が減少していました。
・欧州や北米の虫害
2017年〜2019年にかけて、スイスやドイツでキクイムシが大量発生し、原材料となる針葉樹が大きな被害を受けました。他方、カナダではマツクイムシによる被害が多発しています。
このような虫害では、虫の繁殖を抑えるために被害にあった木を伐採することが最優先されるため、原材料となる健全な木の伐採が後回しにされてしまい、結果的に木材の流通量が減少してしまいます。
・大規模な山火事被害
2017年頃から、アメリカのカリフォルニア州で頻繁に山火事が発生しています。
2020年には特に大規模な山火事が発生しており、このときの焼失面積は東京都のおよそ5.8倍と言われています。
木材は自然由来のもののため、自然現象も供給量に大きな影響を与えます。このような出来事が重なって、世界規模で森林が減少しているのです。
ウッドショックの先行きは?
ウッドショックの先行きについて、木材価格は2021年末をピークに多少下落して収束するかに思われましたが、2023年現在も高止まりしています。
今後の先行きについては様々な見方がされていますが、ここではその一部を紹介します。
アメリカと中国の経済減速
もうひとつポジティブな要素として、アメリカと中国の経済指標がマイナス方向に動いていることも指摘されています。
2022年はアメリカの実質GDPが2期連続のマイナス、中国ではプラスだったものの上昇幅が緩やかになっていることから経済の減速が伺えます。
景気の悪化は決して歓迎できませんが、これにより過熱した住宅需要が一旦落ち着き、ウッドショックの緩和に繋がるのではないかという見方があります。
アメリカの木材先物市場の動向
ポジティブな要素のひとつに、アメリカの木材先物市場の動向が挙げられていました。
木材の高値が続いたことで一時的に需要が減り、2021年8月に木材先物市場の価格が最高値から1/3に下落したことを受けて、ウッドショックが緩和するだろうという見方をされていたのです。
ロシアのウクライナ侵攻
収束しかけたウッドショックが再燃した理由として、ロシアのウクライナ侵攻が挙げられます。というのも、ロシアもウクライナも森林資源が豊富な木材輸出国だからです。
このような輸出国の内政の悪化は、木材の供給にも大きく影響します。木材供給の先行きが暗いというムードが広がると、世界規模でウッドショックが続くことも考えられます。
このように、木材の供給には様々な要素が複雑に関与しているため、ウッドショックの先行きは世界の情勢に左右される状況が続きそうです。
ウッドショック状況下の注意点
ここからは目線を足元に移し、ウッドショック状況下で私たち個人が注意すべき点を解説します。
住宅購入の資金計画を見直す
特に注文住宅や戸建ては木材を多く使用する関係で、ウッドショックが価格に大きく影響します。ウッドショックの影響が出ているあいだは通常より割高になっている可能性が高いので、無理に借入金額を増やさないよう慎重に判断しましょう。
建てる時期の変更を検討するか、どうしてもすぐに建てたいのであれば建物の仕様や広さなどを見直すことをおすすめします。
ウッドショックだけに注目するのも考えもの
では、木材価格が落ち着くまで待つのが最善策かと言うと、そうとも言い切れません。
今回は木材価格の高騰で住宅全体の価格上昇に繋がっていますが、住宅価格は金利や減税措置の有無などによっても大きく変わるからです。
ウッドショックの先行きは現在も不透明であるということは、ウッドショックを判断材料にしている限りはいつまで待てば良いのかさえ見通しが立たないということでもあります。
価格が上昇したぶんを補う手段として、補助金や軽減税率を活用するのもひとつの方法です。
補助金や軽減措置を最大限活用する
ウッドショックによる価格の上昇を少しでも緩和するために、補助金や軽減税率の情報を収集して最大限活用しましょう。具体的には以下のようなものです。
・住宅ローン減税
・住宅取得金贈与の非課税特例
・投資型減税
・固定資産税・都市計画税の軽減措置
・長期優良住宅に対する減税措置
・低炭素住宅に対する減税措置
・すまい給付金
それぞれ適用条件などが設定されていますが、うまく活用できれば数百万円を節約できる場合もあるため、十分に情報を集めてから行動することをおすすめします。
まとめ
ウッドショックは様々な経済的要因の連鎖によって起きている木材価格の急騰で、2023年1月現在も続いています。
新築物件やリフォームには木材が欠かせないため、ウッドショックが続いている状況下での施工は通常よりも割高になってしまう可能性が高いです。
それぞれの検討状況やスケジュール感にもよりますが、ウッドショックの動向に注目しつつ工期の変更も視野に入れるか、それが難しい場合は建物の仕様変更などを検討するなどの見直しをすべきでしょう。
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