2021年税制改正に向けた住宅業者の見直し要望は?専門によるまとめ
内閣府は8月17日、2020年4月から6月までのGDP(国内総生産)が前年比で年率換算27.8%縮小する事態に陥っていると発表しました。
新型コロナウイルスの世界的流行や、消費税が8%から10%に引き上げられた影響から、1980年以降で最大の落ち込みとなりました。あらゆる産業の景気は悪化しており、所得の減少、消費意欲の減退という悪循環に陥っています。
そのうち、住宅投資に関してはマイナス0.2%にとどまっています。
しかし、コロナ渦や消費税増税といった不安定な社会情勢の影響から、新規の住宅着工に遅れが出るなど深刻な問題が浮き彫りになっています。国土交通省が発表したデータによると、全国で新規に着工された住宅の戸数は前年度と比較し12.3%減少の6万3,682件です。
こうしたなか、「住宅税制の抜本的見直しに向けた提言」を行ったのが住宅生産団体連合会です。
本記事では、住宅・不動産関連団体における2021年度の税制改正要望について紹介していきます。
2021年度の税制改正大綱については、こちらよりご確認ください。
業界団体が住宅税制の見直しを提言
住宅生産団体連合会をはじめ、全国住宅産業協会、不動産協会、不動産流通経営協会など住宅・不動産関連団体が、住宅税制の見直しを提言しました。政府は、広範囲にわたり大規模な補正予算を実行し、各種の経済対策を実施していますが予断を許さない状況です。そのなかでも、日本経済を支えるため経済波及効果が高く、国内の雇用維持に大きな効果がある住宅投資が拡充され、不動産流通の活性化が促進される必要があります。
現行の住宅税制の問題点
現行の住宅税制では、日本国民の健康で豊かな住生活の持続的な維持発展を享受できる社会ではないとして、継続的な民間住宅投資により良質的な住宅ストックが可能となる社会にふさわしい住宅税制を実現する必要があります。
現行の住宅税制に対して、下記の内容が新規に住宅を取得するにあたって問題とされています。
1.住宅に対する課税は、取得・保有・流通の各段階に加え、消費税が追加的に課税されている。特に住宅を取得するときの負担が最も重く、民間住宅投資において大きな阻害要因となっている。
2.消費税率は2014年4月と2019年10月と段階的に引き上げられており、取得時期によって税負担が異なる不公平性が発生している。さらに、新設住宅を最初に取得した者にだけ消費税が課せられるのは、国民の公平な負担を目的とした社会保障コストに見合っていない。
3.住宅事情や経済状況・景気動向に対応するために、多岐にわたる特例措置が行われてきた結果、納税者が理解できない複雑な内容になっている。
既存の住宅ローン控除要件
住宅ローン控除の適用対象となるためには、下記の要件を満たしている必要があります。
しかし、住宅を取得する時期により消費税率が異なる点や、世界的なウッドショックにおける住宅着工の遅延などが問題視されています。
・住宅取得後、6ヶ月以内に居住していること
・特別控除を受ける年分の12月31日まで居住していること、かつ合計所得が3,000万円以下であること
・住宅の床面積が50平方メートル以上かつ、床面積の2分の1以上を自己の居住としていること
・10年以上にわたり、住宅取得のための一定の借入金または債務があること
・2戸以上の住宅を所有している場合、主として居住の用に認められる住宅であること
・居住年およびその前後2年の計5年間、譲渡所得の課税特例の適用を受けていないこと
・住宅を取得する際に、生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないこと
・贈与による住宅の取得でないこと
業界団体が提言した住宅税制の見直し内容
上述の社会的背景から、国民が負担を感じることなく住宅を取得できるよう、消費税のあり方を含めた住宅に係る多重な課税について、各業界団体が住宅税制の見直しを提言しました。
消費税については、全国住宅産業協会も、新型コロナウイルス感染症の収束まで時間を要し、住宅取得者の就労・所得環境が悪化することが予想されるとして、住宅に係る消費税率の引き下げを検討するよう2021年度税制改正要望に盛り込んでいます。また、不動産協会では、消費税率の引き上げに左右されない安定的負担軽減措置の検討を求めています。
そのなかでも住宅生産団体連合会が、「住宅税制の抜本的見直しに向けた提言」を行いました。
消費税
1.これまでの住宅取得時に一括して課税する方式から、所有する住宅から享受毎年の住宅サービスの消費に課税する方式に改めるべき
2.1が実現するまでは、暫定的に軽減税率を適用し、税率は5%に固定すべき
3.既存住宅の取得については、販売価格と仕入れ価格の差額にのみ課税すべき
固定資産税
1.家屋への固定資産税を廃止し、土地への課税に一本化すべき
流通課税
1.消費税との重複課税を踏まえ不動産取得税は廃止したうえで、固定資産税を都道府県と市区町村が共同で徴収する地方税とする。かつ、減収分相当を都道府県ぶんとして上乗せ徴収すべき
2.土地登記に係る登録免許税を廃止し、登記事務等の行政コストを手数料として徴収すべき
3.税額の多寡と課税文書の説明力の強さに関係がない、印紙税は廃止すべき
所得税関連(住宅ローン減税制度)
1.住宅に対する消費税課税の見直しを前提に、消費税対策としての役割を終了する。今後は、住宅取得支援として、時々の経済状況を踏まえた適正な規模・水準で運用すべき
2.住宅に対する消費税課税の見直しが行われるまでは、経済対策の中核対策の1つとして有効に活用し、民間住宅投資の落ち込み防止を図るべき
住宅生産団体連合会の主な延長要望は?
住宅生産団体連合会では、期限切れを迎える各特別措置に対し延長要望を提言しています。
1.住宅及び土地の取得に係る特別措置の延長
現行の住宅および土地の取得に係る特別措置では、住宅および土地の取得に係る税率の4%から3%への引き下げと、宅地評価土地の取得にかかる不動産取得税の課税標準を2分の1に圧縮されています。これらの期間延長を求めています。
2.土地登記等に係る特別措置の延長
現行の土地登記等に係る特別措置では、所有者移転登記に係る登録免許税の2%から1.5%への引き下げと、信託登記に係る登録免許税の0.4%から0.3%への引き下げが行われています。これらの期間延長を求めています。
3.買取再販で扱われる住宅の取得等に係る特別措置の延長
現行の買取再販で扱われる住宅の取得等に係る特別措置では、住宅部分に係る不動産取得税の課税標準から築年数に応じて一定額を減額される制度と、敷地部分に対して安心R住宅または既存住宅売買瑕疵担保責任保険に加入する場合の税額を減額する制度が行われています。これらの期間延長を求めています。
4.サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の延長
現行のサービス付き高齢者向け住宅供給促進税制では、固定資産税(家屋)、不動産取得税(家屋・土地)に対する減額や控除が行われています。これらの期間延長を求めています。
その他住宅・不動産系団体の主な延長要望は?
住宅生産団体連合会を含む、不動産流通経営協会、不動産協会、全国住宅産業協会などは買取再販で扱われる不動産取得税の特別措置延長を要望しています。あわせて、住宅及び土地の取得に係る特別措置の延長についても各団体は延長を求めています。
また2021年は固定資産税の評価替えに当たる年であり、固定資産税の負担軽減措置の延長を各団体がこぞって要望すると共に、不動産協会では、「新型コロナウイルス感染症の影響で、経済が厳しい状況にあり、地価の上昇などに伴う大幅な負担増が見込まれる」として安定的かつ確実に固定資産税の負担軽減を図ることが不可欠であると強く要望しています。
このほか、「住宅ローン減税の控除期間の特別措置の延長」「サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の延長」「老朽化マンションの再生を促進するための特例の拡充・創設」「土地登記等に係る特別措置の延長」などを要望しています。
他にも、各団体の特色が表れている要望が下記になります。
一般社団法人 不動産協会(RECAJ)
不動産協会では、都市の防災性能向上や物流効率化の実現に向けた支援措置の延長・創設、DXなどの技術進展も踏まえたニューノーマルに対応するための支援、サテライトオフィスやシェアオフィスの設置などに対する税制上の支援を挙げます。また、所有者不明土地問題に対する税制上の支援措置の延長・創設、企業主導型保育事業に係る特例措置の延長・拡充などを要望しています。
一般社団法人 不動産流通経営協会(FRK)
不動産流通経営協会は、新型コロナウイルス感染症対策措置と共に、多様化する居住ニーズに対応するための支援活動を拡充させる必要があるとして、住宅ローン減税、住宅取得資金に係る贈与の非課税特例などで時用要件とされている最低床面積を50平方メートルから40平方メートルに引き下げる拡充要望を行っています。これには、全国住宅産業協会も具体的な数字を示してはいませんが、同様の要望を行っています。
また、既存住宅の価格が上昇していることから、既存住宅の住宅ローン減税の最大控除額200万円を300万円へ引き上げることと、同措置の築年数要件の緩和もあわせて求めています。他にも、固定資産税の税額軽減特例を既存住宅にも適用することも上げています。
さらにSOHO起業やU・I・Jターンなど多様化する居住ニーズに対応するため、2戸以上の居住住宅・住宅地に住宅ローン減税の適用を求めています。
一般社団法人 全国住宅産業協会
全国住宅産業協会は、マンションの大規模修繕の計画的実施のため、適正な修繕積立金について一定額を所得税から控除するなどの特例措置を要望しています。
また、空き家を取り壊して5年以内にその土地を活用する場合、現行の住宅地特例(固定資産税の課税標準を6分の1に減額)を適用する措置の創設を求めています。
新型コロナウイルス感染症対策としては、新しい生活様式に対応したポイント制度の創設とすまい給付金の増額も要望しています。
今後の住宅税制に対する各団体のコメントは?
今後の住宅税制について、各業界団体がコメントを発表しています。
下記はコメントを一部抜粋して掲載しています。
一般社団法人 住宅生産団体連合会
「先の通常国会で成立した改正建築物省エネ法等を踏まえ、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、ZEH等の省エネ性能の高い住宅の整備を推進するとともに、既存ストックの省エネ改修の促進を図るとともに、長期優良住宅の更なる普及の促進と既存ストックとして円滑に引き継がれていく環境の整備を進める必要がある。加えて、「新たな日常」や DX の進展等に対応した新たな住まい方の実現、 災害に備えたレジリエンス性の確保、地方創生、住宅産業の生産性の向上 等の課題に対応するための誘導策や規制の合理化も不可欠である。 以上のような観点から、当連合会は次頁以降に掲げる経済対策及び住宅関係諸施策の実施を要望する」
公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会
「来年は3年に一度の固定資産税評価替えを控えており、地価上昇に伴う固定資産税の大幅な負担増が見込まれる。商業地の課税標準を一定期間据え置くなど、他団体と連携を図りながら取り組んでいく。更に、消費税対策である、住宅ローン控除に係る控除期間の特例措置や住宅取得資金贈与制度に係る非課税限度額の据え置きなど、住宅市場の冷え込みを緩和するための措置を要望していきたい」
公益社団法人 全日本不動産協会
「21年度政策および税制改正要望書について、昨年同様の要望事項と共に現在新規案等を検討中。先般与党のコロナ対策会議で要望した税制改正要望事項も併せ、引き続き要望する予定である」
2021年の住宅ローン控除見直し/まとめ
毎年12月には、翌年度の税制改正で検討する「税制改正大綱」が公表されます。新規に住宅の取得を検討している場合には、変更内容が現行と比較してどう変わるのか気になるところです。2021年度の税制改正大綱については、こちらよりご確認ください。
現在の日本は消費税の段階的な増税と、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により不安定な社会情勢から日本の景気は後退しています。市場の変化に対応すべく「新しい生活様式」と「新しい日常」に即した住宅ニーズに対応する住宅税制の改正に注目を集めています。
住宅購入で後悔しないためにも、気になることは家・住宅購入とお金の相談窓口である「住まいのコンシェルジュ」までご相談ください。
住まいのコンシェルジュでは、お金と不動産の専門家であるレジデンシャルアドバイザーが中立な立場で、あなたの疑問や不安などの悩みを解消へと導きます。
小野 信一
- 所属会社:
- ネクスト・アイズ株式会社
- 所属会社のWEBSITE:
- https://www.nexteyes.co.jp/
- 保有資格:
- ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、不動産コンサルティング技能登録者、2級建築施工管理技士
- 著書:
- NHK出版「家づくり必勝法」
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監修:ダイヤモンド社「はじめて家を建てました」あべかよこ著
監修:西東社「失敗しない!後悔しない!マイホームの建て方・買い方」
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