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家・住宅購入コラム

マンション管理適正評価制度

マンション管理の状態を第三者が評価し、指標化して情報を公開する「マンション管理適正評価制度」が、4月に始動してから半年を迎えようとしています。同制度の公式サイトには、9月9日現在で33物件が掲載されていますが、この数字は今後どのように推移していくのか。また、制度を運営するマンション管理業協会や業界各社の取り組み、制度充実化への期待など、同制度の現状と見通しについて動向を探ります。

「マンション管理適正評価制度」(以下、評価制度)は、国の法律に基づき地方自治体が認定する「マンション管理計画認定制度」(以下、認定制度)と同じく22年4月に運用が開始されました。マンション管理の質的向上を促進する点は共通しているものの、それぞれに種子や運用方法などが異なります。特に認定制度は、現段階では自治体により状況が大きく異なるため、今回は既に一定の活用がなされている評価制度に焦点を当てます。

まず、現状を見てみます。現在公開されている物件数は33件。マンション管理業協会調査部の次長はこの件数について、「感覚的には予想より少ないものの、意欲的な組合は早々に活用してくれたという印象」と受け止めます。制度への登録申請に必要な総会での承認決議を考慮すれば、まだ時期的には“できれば数は多い方が望ましい”といった段階のようです。
同時に、今は登録申請に向けた管理組合の動きが本格化しているタイミングでもあります。次長は「水面下では、評価や手続きを行っている物件が現時点で100権を超えます。約1~2ヶ月後には、これらの物件の情報も公開される見込みだ」と明かします。
この動きは、管理組合の活動スケジュールの都合によるところが大きいです。管理組合の総会は6月頃が一般的なため、総会決議で制度利用を決め、各種書類などを作成してから登録申請を行うと、8~9月に申請と評価手続等が重なるという事情です。
大手管理会社に現状を尋ねたところ、同様の動きがうかがえました。例えば、現在のところ受託管理物件の掲載数が最も多い東急コミュニティーは、「評価向上のための改善策と併せて提案を実施しており、110管理組合から総会承認決議をいただいている。また申請に当たり、1800を超える管理組合が継続的な検討を実施している」(同社広報担当者)という状況です。また掲載物件すべてが最高評価の☆5つで最多の野村不動産パートナーズの担当者は、「現時点で、十数組合が登録申請へ向けて具体的な準備・取り組み(総会決議など)を行っており、具体的に検討中の組合も50件超ある」とします。こうした管理組合についても、近い将来に評価制度利用と情報公開が予想されます。
また、同協会のの理事長が会長を務める三井不動産レジデンシャルサービスは、「社内的にはすべてのマンションの評価を終え、今年度中には、各物件の事情にも配慮しながら原則すべての受託管理組合に制度の説明を行っていく方針だ」と意欲を見せています。水面下で制度活用の準備が進んでいるのは、こうした業界の働きかけの結果と言えるでしょう。

とはいえ制度の理想的な活用に向けては、やはり課題も複数指摘されています。一定の評価を取得するためには長期修繕計画の見直しが必須となるケースもあり、意欲はあっても対応が難しい管理組合は多いです。また管理会社側の対応力が追いつかず、十分な周知を図れていない場合もあります。
加えて、評価制度利用によるインセンティブも発展途上です。制度の趣旨としては、管理の質的向上による市場評価と資産価値の向上、そして住む人自身にとっての「居住価値」の維持向上が狙いではあるものの、その認識が十分に届いていないと同協会は見ます。
他方、管理組合側としては、より直接的なメリットを期待する部分も否めません。同協会も、評価に応じた各種保険の優遇を目指しており、実際に損害保険ジャパンが評価結果をリスク評価に利用することを決定。しかし次長は、「保険におけるメリットを強くアピールしすぎたかもしれず、反省点と捉えている」と率直に語ります。「居住価値」向上が制度の根本的な部分であり、管理会社にもそれを認識して管理組合に提案を行っていくよう期待を寄せます。
インセンティブについては、国による後押しも気になるところです。同協会は、8月29日に公開した政策・税制改正要望で、「評価制度で一定以上の評価を得たマンションに対する税制優遇」を求めています。

一方で、国土交通省が8月25日に示した「23年度税制改正要望」には、大規模修繕工事を行ったマンションに対する固定資産税の特例措置創設が盛り込まれており、その対象を「管理計画認定マンションその他一定の要件を満たすマンション」としています。ある業界関係者は、「認定制度は自治体の対応状況により利用できない場合がある。評価制度であれば全国をカバーしているため、公平性の面から補完の“要件”として妥当なのでは」と指摘します。
しかしながら、同特例措置の項目を担当する同省住宅局の課長補佐によると、「今のところ(要件に)評価制度を含める予定はなく、(評価制度に関しては)白紙の状態に近い」というのが現状。併せて「地域的な空白が生じる点は指摘の通りであり、その補完制度とする可能性もゼロではないが、具体的な検討はこれから。今回の要望は、認定制度の前提となるマンション管理適正化推進計画を各自治体に進めてもらうことが趣旨だが、当然、関連業界の声もしっかりと聞きながら取り組んでいきたい」と課長補佐は言い添えました。
制度活用の面でもインセンティブの面でも、評価制度は準備期間を終えて、普及拡大と軌道修正のフェーズに移行しつつある様子です。同協会は年度内に詳細なデータ集計と分析も予定しており、22年度下半期には業界を挙げた取り組みとその成果が、更に顕在化していくものと見られます。

徳本 友一郎

所属会社:
株式会社スタイルシステム
所属会社のWEBSITE:
http://www.style-system.net
保有資格:
CFP(日本FP協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
著書:
初めての不動産購入で失敗しない17のチェックポイント

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