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家・住宅購入コラム

住宅市場とZEH住宅の今後は?注文・建売・集合住宅の比率や見通しを専門家が解説


2020年10月26日、第99代内閣総理大臣である菅義偉首相が2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。この宣言を受け、再生可能エネルギーの利用促進や温室改善効果ガスの排出量削減に注目が高まっています。
カーボンニュートラルの実現に向けた政府の方向性と住宅業界への取り組みとして、中期目標達成のため2030年以降に新築される住宅について、ZEH基準の住宅・建築物の省エネルギー性能の向上は喫緊の課題となります。
 
株式会社野村総合研究所は、この状況を鑑みて「日本における住宅市場予測」を発表しました。予測結果によると、2030年のZEH住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のストック数は約159万戸となり、政策目標達成に必要な313万戸には遠く及ばない予測を発表しました。
 
本記事では、今後の住宅市場とZEH住宅について、注文・建売・集合住宅の比率や見通しに基づき紹介していきます。
 

住宅市場の今後を牽引するZEH住宅とは

 

 

ZEH住宅とは

 
ZEH住宅とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略語で、躯体強化(断熱性の向上など)や省エネルギー(高効率家電)、創エネルギー(太陽光発電など)を採用することで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した住宅です。
 
そのなかでも、4つの判断基準が設けられており、ZEH住宅と認められるための基準を満たす必要があります。
 
1.強化外皮基準を満たすこと
 
地域区分1〜8地域の省エネルギー基準を満たしたうえで、地域ごとに異なるUA値(外皮平均熱貫流率)を0.4以下〜0.6以下に収める必要があります。UA値は低ければ低いほど、断熱性能が高いとしています。定められた強化外皮基準をクリアしなければ、ZEH住宅として認められません。
 
2.一次エネルギー消費量20%以上削減
 
石油や天然ガスなどの一次エネルギーを、現在定められている省エネルギー基準よりも20%以上削減している住宅がZEH住宅として認められます。一次エネルギー消費量に関する基準は、外壁や窓の断熱性、空調・証明・換気・給湯・昇降機などの設備の性能、太陽光発電等による創エネルギーの取り組みが総合的に評価されます。
 
3.再生可能エネルギーの導入
 
太陽光発電システムや家庭用燃料電池などの設備が整えられ、必要なエネルギーをつくり利用することができる住宅がZEH住宅として認められます。
 
4.再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%削減
 
定められた省エネルギー基準よりも20%以上削減しているうえで、太陽光発電などで電力を作り出し、一次エネルギー消費量から100%削減を目指せる住宅であること。
あくまで年間のエネルギー消費量をゼロにすることを目標としています。
 
他にも2021年5月に国土交通省が公表した「資本整備審議会第18回建築環境部会提出書類におけるエネルギー削減量の算出根拠について」では、2030年の政策目標(日本全体の温室効果ガスの削減目標)達成に必要な目安としてのZEHストック数は、戸建住宅と集合住宅の合計で313万戸必要とされています。
 

ZEH住宅が登場した背景

 
政府は、ZEH住宅の普及を目指し各種政策に取り組んでいます。
 
日本では戦後間もない時期には、水力や石炭などの国産エネルギーを利用していました。その後、輸入石油を基盤に高度経済成長を遂げており、過度に依存した輸入石油の供給体制の脆弱性、石油が枯渇した際のエネルギー源不足という問題を抱えています。
日本での原油自給率は、2019年度で約12.1%と非常に低く、中東などの海外から輸入される化石燃料に大きく依存しているのが現状です。
 
資源エネルギー庁が行った調査によると、すべてのエネルギー消費量のうち約30%以上が建築物・住宅関連にエネルギーが使われているとの結果が出ています。そのため、地球温暖化などの気候危機に対処すべく、建築物・住宅関連の省エネルギー対策の抜本的強化が必要不可欠であるとしています。
エネルギー消費量の収支をゼロにするZEH住宅を普及させることで、日本全体で消費するエネルギーを確実に減らしていくことが目的です。
 

ZEHの定義

 
ZEHは「戸建住宅と集合住宅の違い」や「実現しているエネルギー削減量」などにより、異なる名称が定義されています。
 
戸建住宅では、ZEH・Nearly ZEH・ ZEH Orientedの3つ、集合住宅では、ZEH-M・Nearly ZEH-M・ZEH-M Ready・ ZEH-M Orientedの4つです。
 
・ZEH・ZEH-M
エネルギーの削減量が省エネルギーのみで20%以上、再生可能エネルギーを含み100%以上住宅
 
・Nearly ZEH・Nearly ZEH-M
エネルギーの削減量が省エネルギーのみで20%以上、再生可能エネルギーを含み75%以上住宅
 
・ZEH-M Ready
エネルギーの削減量が省エネルギーのみで20%以上、再生可能エネルギーを含み50%以上住宅
 
・ZEH Oriented・ZEH-M Oriented
エネルギーの削減量が省エネルギーのみ20%以上の住宅
 
上述以外にも、ZEHをより高性能にしたZEH+(ネット・ゼロ・エネルギー・プラス)およびZEH+Rが存在します。
 

ZEH住宅は今後普及する?

 

 
同研究所の調査によると、2016年以降は環境省や経済産業省の補助金制度の後押しを受け、ZEH住宅の着工戸数は確実に伸長しています。
 
2016年では3万5,340戸だったZEH住宅着工戸数は、2019年では6万8,244戸まで増加しています。2019年の内訳を見ると、分譲戸建て(建売住宅)の1,907戸や集合住宅(分譲・賃貸)の8,596戸と比べて、持ち家(注文住宅)は5万7,741戸となり約8割以上を占めていることが分かります。
 
分譲戸建てや集合住宅にてZEH住宅の普及が遅れている要因として、ZEH住宅とするためのコスト負担が挙げられます。特に集合住宅では、ZEH化に必要な大容量太陽光発電設備が載せられない点や、全住戸をZEH化するにはコストが膨らみすぎてしまう点などがネックとなっているようです。
 
2020年以降の着工戸数については、下記の比率を基に分析しています。
 
1.住宅用太陽光発電システムの導入
太陽光発電協会「住宅における太陽光発電システム導入件数」
 
2.エネファームの導入
コージェネ財団「エネファーム メーカー販売台数」
 
3.電気自動車の導入(販売)
日本自動車工業会「日本の自動車工場2020」
 
ZEH住宅が上記の3点と同程度の速さで普及すると仮定した場合、2024年の13.7万戸に向けて増加を続け、その後は年間約14万戸程度で横ばいまたは漸減で推移し、2030年ではZEHストック数が約159万戸まで積みあがると予測しました。しかし、政府の政策目標達成に必要な目安であるZEHストック数の313万戸には及ばず、半数程度にとどまります。
 
また、新型コロナウイルス感染症の影響により4・5地域での強化外皮基準であるUA値0.4以下の供給が困難になっています。コロナにより新しい生活様式が定着されつつある昨今の住宅市場で、経済性や快適性に優れたZEH住宅に対する関心は高まりつつあると期待されるものの、ZEHに対する認知がまだ十分に進んできているとは言い難い状況であると言えるでしょう。
 

ZEH住宅の普及に向けた政府目標

 
2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、政策目標が設定されています。
 
・2030年以降新築される住宅について、 ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す
・2030年以降新築される住宅について、 ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す
 
この目標の達成に向けたZEH住宅ロードマップが、経済産業省に設置されたZEH住宅ロードマップ検討委員会により2018年5月に公表されました。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁
 
こうした国・業界団体・民間事業者との連携を図り、2015年に制定された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」に基づき、2025年以降に新築する全建築物に省エネ基準への適合を義務付けるとしています。
 

ZEH補助金制度

 
経済産業省と環境省の2022年度ZEH補助金制度は、個人が対象の補助制度と事業者が対象の補助制度の計6つが対象です。
 

事業名 公募期間 対象となる住宅
ZEH支援事業 2022年7月4日
~8月19日
・ZEH
・Nearly ZEH
(寒冷地、低日照地域、多雪地域に限る)
・ZEH Oriented
(都市部狭小地の2階建以上および多雪地域に限る)
ZEH+支援事業 2022年7月4日
~8月19日
・ZEH+
・Nearly ZEH+
(寒冷地、低日照地域、多雪地域に限る)
次世代ZEH+
(注文住宅)実証事業
2022年5月6日
~2023年1月6日
・ZEH+
・Nearly ZEH+
(寒冷地、低日照地域、多雪地域に限る)
次世代HEMS実証事業 2022年7月11日
~8月19日
・ZEH+
・Nearly ZEH+
(寒冷地、低日照地域、多雪地域に限る)
超高層ZEH-M
(ゼッチ・マンション)実証事業
2021年6月1日
~6月30日
・ZEH-M
・ZEH-M Ready
・Nearly ZEH-M
・ZEH-M Oriented
中高層ZEH-M
(ゼッチ・マンション)支援事業
2022年6月1日
~6月30日
・ZEH-M
・ZEH-M Ready
・Nearly ZEH-M
・ZEH-M Oriented
低層ZEH-M
(ゼッチ・マンション)促進事業
2021年9月13日
~9月30日
・ZEH-M
・Nearly ZEH-M

 

その他住宅関連の予測は?

 

 

新設住宅着工戸数

 
同研究所がまとめた新設住宅着工戸数予測では、2030年は65万戸、2040年には46万戸に減少する見通しです。新型コロナウイルス感染症が流行した2020年の81万戸と2040年の46万戸を比較すると、約43%も減少する予想となっています。しかし、人々が住宅に求めるものの基準が、ビフォアコロナ/アフターコロナでは大きく変化しています。消費者の新しいニーズと既存の住宅ストックの間には若干のギャップが生まれることとなり、中期的に新設住宅着工戸数が押し上げられる可能性を秘めているとしています。
 
新設住宅着工戸数に影響を与える要因として、移動世帯数・住宅ストックの平均築年数・名目GDP成長率の3つが挙げられます。
 

・移動世帯数

移動世帯数は、2020年の418万世帯から2030年には386万世帯へと減少していく見通しとなっており、2040年にはさらに減少して343万世帯となると予測されます。
 

・住宅ストックの平均築年数

住宅ストックの平均築年数は、着工時期別に住宅ストックが建築後にいくら減少するかという住宅ストックの減少率をもとに算出しています。2013年の「22年」から、2030年には「29年」、2040年には「33年」近く平均築年数が伸長する見通しです。
 

・名目GDP成長率

名目GDP成長率は、新型コロナウイルス感染症の影響により2020年には-4.0%と短期的に大きく変動をしました。しかし、その後の一時的に盛り返しては中長期的に成長は鈍化し、2030年では0.4%、2035年では0.1%まで落ち込む見通しとなっています。
 
一般世帯に対する新設住宅着工戸数の割合は、2020年では5,411万世帯のうち1.5%が新たに住宅を着工しているのに対し、2030年では5,348世帯のうち1.2%と現状の水準から漸減する見通しです。
 
利用関係別に見た新設住宅着工戸数は、持ち家・分譲住宅・貸家(給与住宅含む)のいずれも漸減すると予想されています。
 

・持ち家

2020年では26万戸が新たに持ち家を住宅着工しているのに対し、2030年では21万戸に漸減。
 

・分譲住宅

2020年では24万戸が新たに持ち家を住宅着工しているのに対し、2030年では18万戸に漸減。
 

・貸家(給与住宅を含む)

2020年では31万戸が新たに持ち家を住宅着工しているのに対し、2030年では27万戸に漸減。
 

リフォーム市場規模

 
増築・改築工事や設備等の修繕維持費にリフォーム関連の耐久消費財、インテリア商品などの購入費を含めた広義のリフォーム市場規模は、2040年まで年間6〜7兆円台で微増、あるいは横ばい傾向が続くと予測しました。耐久消費財などの購入費を差し引いた狭義の市場は、広義の市場規模より1兆円少ない規模を見込みます。
 

ZEH住宅の今後の課題とは?

 

 
注文住宅と比較して、分譲住宅・集合住宅におけるZEH化が進んでいないことが課題の1つとなります。
 
分譲住宅や集合住宅では、ZEH住宅に必要なぶんの太陽光発電設備を載せることができない点や、全住戸をZEH化するにはコストの負担が大きすぎる点などから進捗が進まない傾向にあります。
 
同研究所では、政策目標を達成するには官民連携のもと思い切った方策が必要であるとしています。例えば、認証制度のようなZEH住宅が不動産市場で評価される仕組みづくりや、自家のみならず隣家にも余剰エネルギーを供給できる場合の優遇措置を挙げました。
 
他にも同研究所では、「分譲戸建に焦点を当てた政策や、環境性能が劣る老朽化住宅へのZEHへの建て替え促進も検討すべき論点」としています。
 

住宅市場とZEH住宅の今後/まとめ

 

 
同研究所によると、2030年度の政策目標の達成に必要なZEHストック数(ZEH累積着工戸数)313万戸には及ばず、横ばい・漸減で毎年推移し約159万戸となる予想です。新型コロナウイルス感染症の拡大から、人々が住宅に求めるものが変化しており多様化する住宅ニーズにどう応えていくかがポイントになります。
政策目標の達成に向け、思い切った施策や更なる普及拡大策を講じていく必要があるでしょう。
 
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住まいのコンシェルジュでは、お金と不動産の専門家であるレジデンシャルアドバイザーが中立な立場で、あなたの疑問や不安などの悩みを解消へと導きます。

金綱 利幸

所属会社:
株式会社リアルテクト
所属会社のWEBSITE:
http://realtect.co.jp/
保有資格:
AFP(日本FP協会認定) 宅地建物取引士

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